スティーヴ・アルビニ「音楽の問題」 (1993)


スティーヴ・アルビニ 数々の肩書き

  • 音楽エンジニア(基本的にプロデューサーとは名乗りたくない)
  • ミュージシャン/シンガー&ギタリスト(Shellac, ex. Big Black, etc.)
  • レコーディングスタジオ・Electrical Audioオーナー
  • ポーカープレイヤー(やろうと思えばこれで食っていける、と言っている)
  • ライター(大学ではジャーナリズム専攻)

2018年にはポーカーの世界大会で優勝して話題になりましたね(一部で)。


彼はライターとしても多くの記事を書いています。

モンタナ州のミズーラという自然豊かな街で育ったアルビニ青年は、高校を卒業するとシカゴのノースウェスタン大学でジャーナリズムを学びます。そして20歳でビッグ・ブラックを結成し音楽キャリアをスタートさせますが、その頃シカゴのローカル誌(ジン)・『Matter』や『Forced Exposure』などでライターとしても活躍しはじめました。当時のハードコアバンドのレビュー(フガジのシンガー&ギタリスト、ガイ・ピチョットが在籍していたライツ・オブ・スプリングを「マジで酷いバンド」とこき下ろし、当時まだ知り合いじゃなかったイアン・マッケイは「なんだこのライターは!」と唖然としたらしい)や、名作『Zen Arcade』制作直前のハスカー・ドゥのインタビューなど。その後もちょいちょい文章を書いたりしているようですが、本人は「絶対に本は出さない」そうです(確かとあるPodcastのインタビューでそう言っていました。)

1983年9月にファンジン『Matter』に収録されたハスカー・ドゥのインタビューです。当時スティーヴ・アルビニは同誌のライターでした。原文...

1993年12月にカルチャー誌・『Baffler』に寄稿した『The Problem of Music』は、彼のライターとしての作品の中でも有名なものです。原文はBafflerの公式サイトから読めます。以下はその訳です。

ちなみに1993年といえば、彼がプロデューサー/エンジニアとして手掛けた作品群の中で最も有名な、ニルヴァーナの『In Utero』が制作・発表された年でもありますね。

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音楽の問題

メジャーレーベルと契約しようとしている友人と話しをするときは、決まっていつも彼らがとある状況に陥っている場面を想像することになる。幅4フィート、深さ5フィート、恐らく60ヤードくらいの長さで、ドロドロに腐った糞で一杯になった溝。この溝の端には、仲のいい友人や顔見知り程度の知人らが佇んでいる。その反対側の端には、顔の無い業界の従僕が万年筆とサインする契約書を持って待ち構えている。

契約書には何が書いてあるのか誰もわからない。あまりにも遠い上に、糞の悪臭のせいでみんな涙目になっているからだ。従僕は、一番早くここまで泳いで来た者が契約を勝ち取ることができる、と叫んだ。皆がいっせいに溝に飛び込んで、反対側へたどり着くまで我先にと狂ったようにもがいている。二人同時に到着すると今度は狂ったようにレスリングをし始め、取っ組み合ってお互いを糞溜めの中に沈め合っている。やがて片方が降参して、もう片方が残った。彼は万年筆に手を伸ばした。しかしそこで従僕は言う。「いや、やっぱり、君はもうちょっと成長が必要だね。もう一回泳いできて、お願いします。背泳ぎで。」

もちろん、彼はもう一度泳ぎ始める。

Ⅰ. A&Rスカウトマン

現在新人バンドの発掘を行っているメジャーレーベルには、見込みあるバンドに対していい顔をして歩く、A&Rという優秀な担当者がいる。A&Rとは「Artist(アーティスト)」と「Repertoire(レパートリー)」という意味で、これはその昔、与えられた予算内でどのアーティストの何の曲(レパートリー)を録音するか、というのをすべてA&Rが選んでいたためだ。このシステムはいまだに続いているわけだが、オープンにはなっていない。

この担当者というのは一般的に若く(言い寄られるバンドマンとほぼ同年代)、アングラ・ロック界隈でやけに信憑性のありそうな話をしてくるのが最近の傾向だ。元Minor Threatのギタリスト、ライル・プレスラーはその中の一人だ。元ニューヨークのインディペンデント・ブッキング・エージェントで、タッチ・アンド・ゴー1のアシスタントマネージャー、テリー・トーキンもその中の一人だ。元CBGBのPA、アル・スミスもその中の一人だ。元XXXファンジン編集者で、『Rip』、『Kerrang』といった低俗雑誌に寄稿しているマイク・ギッターもその一人だ。過去カレッジラジオ局で働いていたうっとおしい野郎の多くも彼らの下で働いている。

A&Rスカウトマンが若い理由はいくつかある。スカウトマンは現在の音楽「シーン」に「精通」しているから、というのが普段言われている説明だ。 しかしそれよりも、スカウトマンとそのバンドのロック体験が共通のもので、バンド側に「こいつは俺たちの仲間だ」と直観的に信じさせてしまうことのほうがより重要なのだ。

A&R担当はそのバンドと契約を結ぶ最初の人物で、要するにバンドに夢への切符を約束する最初の人間。大手レコード会社とやり取りした経験もないくせに、今後数年間偉そうに命令してくる青二才の理想主義者のガキより、夢への切符を約束してくれる方がそりゃいいだろう。カモにしようとしてるバンドと同じくらい、その彼も世間知らずなんだが。彼がバンドに「曲作りには誰も口出ししない」と言うとき、言った本人はむしろそれを信じているだろう。

彼とバンドがカッペリーニを囲んで初めて話をするとき、こんなことも言うだろう。レコード会社Xと契約する=自分と契約をするということ、だから自分自身もバンドの味方だ、と。85年のあのライブ、覚えているかい?僕が君らを観たあのライブを。最高の瞬間だったよな、と。

今やすべてのロックバンドは、音楽業界のマヌケを見抜けるほど物分かりが良いのである。時代遅れのギョーカイ用語を使って、誰も彼もを「ベイビー」と呼びながら早口で話す、恰幅のいい中年の元ヒップスターという、ポップカルチャーではよく知られた風刺画もあるくらいだ。 しかし「そんな」A&R担当とのミーティングの後、そのバンドはメンバー同士で、またその他の人々に対してこう言うのだ。「彼は全然レコード会社の人間っぽくないよ!俺らと同じだよ!」 そう、彼らは正しい。それが彼が雇われた理由の一つだ。

こうしたA&R担当は、契約を結ぶ権利を持っていない。彼らの仕事は、基本合意書、もしくは条件等がザックリと記載されている「取引メモ」をバンドに渡し、合意に至った時点でレーベルは間違いなくバンドと契約します、と断言することだ。

無害のように聴こえるこの「メモ」に関して最も気味の悪いことは、これが法的拘束力のある書類である、ということだ。すなわち、一度その書類にサインしてしまえば、そのバンドはレーベルと契約しなければならない義務が生じる。もしレーベルが契約書を持ってきて、それにバンドがサインしたくない場合、レーベルはただ待っていればよい。契約書にサインしたがっているバンドは他に何百といるわけだから、レーベル側の方が有利なのだ。

これらの書類は失効期日もないので、どれだけ長くかかろうと、契約書にサインするまでこの取引メモによってバンドは束縛され続ける。バンドはこの合意書から解放されるまで、他のレーベルと契約することもできないし、自分たちの作品をリリースすることすらできない。そしてその日は一生来ない。勘違いしないでほしいのは、一度基本合意書にサインすれば、バンドは最終的に契約を結ぶか、解散するかの二者択一しかないということ。

私の好きなバンドの一つは、口達者な若い「全然レーベルの人間っぽくない」A&R担当に、この取引メモのおかげで約二年間も人質に取られていた。彼は約束を何一つ果たすことがなかったので(他の著名なバンドにも同様のことをしていた)、バンド側は降りたがった。他のレーベルが興味を持ったので、バンドを解放するようA&R担当に尋ねたところ、考慮する前にまずお金か詳細、できればその両方が必要だと言った。

新しいレーベルは金額が高くつくことを恐れ、断ることに。名作となるアルバムを制作してる真っただ中、この素晴らしいバンドは、ストレスと何ヶ月間もの活動休止によって酷く傷つき、解散した。

Ⅱ. レコーディングに関する嫌なこと

  1. 無意味な言葉を使ってクライアントに「この人は何が起こっているのか分かっているんだ」と思わせるプロデューサーとエンジニア。「パンチ」、「暖かみ」、「グルーヴ」、「ヴァイブ」、「フィーリング」などの言葉。 特に「パンチ」と「暖かみ」。 この言葉を聴くたびに、誰かの首を締めあげたくなる。
  2. エンジニアでもなんでもなく、スタジオで自分が何をやっているか微塵も分かってないくせに、口だけは達者なプロデューサー。歴史的に見てプロデューサーになるための道のりは、以下の通り。大学で電気工学の学位を取得。スタジオでアシスタントエンジニアの職に就く。その後セカンドエンジニアに昇進。仕事を覚えてエンジニアになる。これらを数年間やってから、ようやくプロデュースに挑戦できる。現在、一人前の「プロデューサー」になるために必要なことは、プロデューサーになりたいと言い張る厚かましさである。
    ドン・フレミング2、アル・ジュールゲンセン3、リー・ラナルド4、ジェリー・ハリソン5といった人物を「プロデューサー」と呼ぶのは、今年のプレイオフを全部観ているからという理由で、バーニー(・ウィリアムス6)を遊撃手と呼ぶのと同じことだ。
    この言葉は、軽蔑的なニュアンスを持って解釈されていることもある。モンタナの人々がノース・ダコタの人々に関するジョークを言うように、エンジニアはプロデューサーに関するジョークを言うのだ。(電球を変えるのに何人のプロデューサーが必要か?-うーん。わからない。はどう思う?なぜプロデューサーは道路を渡ったのか?-なぜならビートルズがそうしたからさ、メーン。) 自尊心のあるエンジニアが自分たちを「プロデューサー」と呼んでいるのは、それが理由だ。
    アルバムレコーディングを十分にこなせるようになるために必要な最低限のスキルは、以下のとおり。

    • 所有している全マイクの知識、特性、使い方を知ること。これはSM57を壊さずに落とす方法を知るだけではない。
    • 使う可能性のあるすべての機材、そしてそれらに付随するであろうすべての機能の経験。これはエコーがどんな音なのかを知るだけではない。隣接帯域内で位相シフトが最小なのはどのイコライザーか?よりヘッドルームがあるのはどのコンソールが?一番クリーンな出力電子を持つのはどのマスタリングデッキか?
    • 所有している音楽スタイルの経験。明かな失敗作はいつできるのかを知るため。
    • すべてがしっかりと機能するように、必要な楽器や機材のチューニング、メンテナンスをする能力。ギターをチューナーに繋ぐだけではない。減衰中の上昇音をシミュレーションするには、どのようにドラムをチューニングすればよいのか?下降音は?和音は?440HzのAに合わせてチューニングされたピアノと一緒に、Eフラットのキーでファゴットは演奏できるか?全音のピッチを変更するには、何パーセントのバリスピードが必要か?10Khzでより多くのヘッドルームを得られるのは、どれぐらいのオーバーバイアスか?バイアスのかかった未録音のテープで、自己雑音が最も低くなる基準磁束値は何か?毎年7月に店を閉め世界的なテープ不足を引き起こすのはどこのテープ業者か?劣化してシェディングを起こしているマスターテープの対処方は?ベトベトになったものは?
    • ふさわしい信号経路を選ぶことのできる程度の電子回路の知識。これは、ディレイラインとイコライザーの違いだけではない。出力トランス付のA級ディスクリート・プリアンプと、モノリシック製の差動回路、ヘッドルームが多いのはどちらか?アンバランス・ラインで信号の減衰に最も適した場所はどこか?グランドの差動入力のコールドレグがショートした場合、信号レベルに何が起こるか?最新のディストーション、VCA、プリント・プラスチック・ポット、フォトレジスタ、もしくはワイヤー巻きステップ減衰器が付いているのは、どのゲイン・コントロール機器か?アンバランスのラインをハーフノーマルのジャックに繋ぐと、信号経路を不均衡にするか?トランススプリッターは機材へのインプットに平行して負荷をかけるか?シールド付きアンバランス・ラインとフロート・シールド付きバランス・ライン、RFノイズが少ないのはどちらか?
    • 多才且つ音楽と調和する美的感覚と、
    • それを使うタイミングがわかるセンスのよさ。
  3. 誰も興味のない流行りもののエレクトロニクスとその他の薄っぺらいクソ。5年前、どこもかしこもすべてのものが個別のサンプルで出来ていた。本物のドラムが使われることなんてほとんどなかった。サンプルだけ。その次のトレンドがパルテック・イコライザー。すべてパルテックEQを通さなければならなかった。
    それからビンテージマイクが大流行(ただそれも、この世で最も鬱陶しく不快なマイク、ノイマン限定だ)。そして今のトレンドはコンプレッションだ。特にチューブ・リミッターを通したなら、トン単位でコンプをかける。ワォ。録音物がどれだけ酷かろうが関係ない。チューブ・リミッターを通している限り、誰かしらが「暖かい」音だといい、終いには「パンチがある」とまでいう。 ひょっとしたらビートルズと比べるかもしれない。私は、コンプレッションを発明した奴を見つけ出して、肝臓を引きちぎってやりたいと思う。嫌いだ。コンプレッションはすべてをビールのCMみたいな音にする。
  4. DATマシン。DATマシンはクソみたいな音が鳴り、安いという理由で今やクズみたいなスタジオならどこでも一台は持っている。クズスタジオに住み着くクズエンジニアは、頭が固すぎてアナログ・マスター・デッキの繋ぎ方もメンテナンスの仕方も覚えられないので、DAT機器しか使っていないのだ。DATテープは経年劣化し、記録された情報は失われたら二度と戻ってこない。一ヶ月も経たない内にテープが取り返しがつかないほどにダメになったケースも見てきている。DATテープをファイナル・マスターに使用することは、ほとんど詐欺的に無責任な行為だ。
    クズ野郎を締め出すためにも、テープ・マシンはデカく、かさばり、使い難くあるべきである。DAT機器は馬鹿の生活を支え、私たちが聴く音楽に被害を及ぼす。
  5. Beatlesみたいな音にする。近頃耳にするレコードはどれも、コンプのかかったやかましいボーカルと、その後ろで静かにかすかに聴こえるロックバンドのものばかりだ。バンドに対し、このような変なバランスでやらせているプロデューサーの言い訳は、そうすればBeatlesみたいな音になるから、だそうだ。そんなわけないのである。サーストン・ムーアはポール・マッカートニーじゃないなんて猿でも知ってるし、時間と素材を無制限に使ったところで、スマッシング・パンプキンズをビートルズみたいな音にすることなんか誰にもできやしない。やろうとしたところで、よけい間抜けに見えるだけだ。なんでたまにはスマッシュコーズ7や、メタル・アーベイン8や、サード・ワールド・ウォー9みたいな音にしようとしないのか?

Ⅲ. こんなバンドがいる

こんなバンドがいる。彼らはごくありふれたタイプだがとてもいいバンドで、一定の注目を集めている。流通会社が所有するそれなりの規模の「インディー」レーベルと契約し、二枚のアルバムをそこからリリースしている。

勢いのあるバンドだ。彼らはメジャーレーベルと契約したがっている。そうすれば、セキュリティや、いい機材を使えるようになるし、ちゃんとしたバスでツアーに行くことだってできる。決して豪華なものでなく、頑張っている自分たちへのささやかなご褒美として。

結果として、まずマネージャーが付くことになった。彼はレーベルの人間を知っているので、次のプロジェクトを任せる人物を探すことができる。もちろん彼にもいくらか取り分があるが、それはたったの15%で、それで契約が結べるのであればまったくもって賢明なやり方だ。それに、うまくいかなかった場合にコストはまったくかからない。0円の15%なんて全然たいした額じゃない!

ある日A&Rスカウトが彼らに電話をかけてきた。聞くと、そのA&Rは「彼らのバンドに長い間注目していた」らしく、彼らのマネージャーがバンド名を言った時に「ピンッ」ときたそうだ。 レーベルと契約交渉の可能性について、一度会って話してみないか?ワォ。ついにその時がきた。

バンドはそのA&Rと会うことになった。果たしてどうだったか?彼は想像していた人物とは違っていた。年齢は若く、服装もバンドメンバーと同じようなスタイルだ。彼はバンドが好きな音楽をすべて知っている。彼は俺たちの仲間だ。彼は、バンドに協力したい、必要なものはなんでも提供できるよう手配したい、と伝えた。彼は、正しいアティチュードがあればなんだってできるんだ、と言った。彼らはその夜、自宅に取引メモを持ち帰り、その場でサインをした。

A&Rは素晴らしいアイデアをたくさん持っている上に、名のあるプロデューサーの起用についても話している。ブッチ・ヴィグ10は論外だ。彼は100万ドル+売り上げの3%を要求している。だが、ドン・フレミングなら3万ドル+3%で雇える。それでも高いなら、以前デイヴィッド・レターマン11のバンドにいた人物に頼むこともできるだろう。彼の場合は3%だけだ。もしくはレコーディングは誰かにやらせて(例えばワートン・タイアーズ12。コストは5000~1万ドルくらいだろう)、リミックスを4000ドル+2%でアンディ・ウォレス13に依頼するのもアリだ。考えるべきことは多くあった。

ともかく、バンドは彼を気に入り信用した。さらに彼らは既に取引メモにサインしてしまっている。彼は真剣にバンドに契約して欲しかったに違いない。彼らは現在のレーベルにこのことを伝えた。レーベルマネージャーは、君たちには成功してほしいと言い、祝福した。もちろん、バンドには契約に残っているアルバム分の補償をしてもらう必要があるものの、そこはマネージャーとレーベルでなんとかすることになった。サブ・ポップ14はNirvanaで何百万ドルも稼ぎ、一方ツイントーン・レコーズ15も、追加のリリースをすることなく、ベイブス(・イン・トイランド)で5万ドル、ポスター・チルドレンで6万ドルと悪くなかった。今回はそこそこものになるだろう。新しいレーベルにしてみれば印税で回収できればそれでいいのだ。

そうして彼らは最終契約までこぎつけたが、それは期待していたものとはかけ離れていた。これは早めに手を打っておいたほうが良いと判断し、彼らは弁護士を訪ねた。その弁護士は、本人曰く芸能関係の案件も受け持ったことがあるとのことで、契約書から不備な点をいくつか見つけ出した。それでも彼らは釈然としなかったが、弁護士が言うには、これまでたくさんの契約書を見てきたが、彼らのものはとてもいいとのことだった。彼らがもらえる印税も13%(内、10%の包装費が差し引かれる)とかなりいい数字だ。12%から10差し引いた分しかもらってなかったのは、バッファロー・トムだったか?どうでもいいが。

以前のレーベルは、向こうの取り分は50万ドルで印税分はゼロ。おい、サブ・ポップはニルヴァーナと契約した時3%もらってたぞ。彼らの契約は4年間で、毎年の選択権が付き、総額なんと百万ドル以上!誰にとっても大金だ。初年度の前払い分だけでも25万ドル。考えてみて欲しい。ロックバンドに在籍するだけで25万ドルだぞ!

彼らのマネージャーもこれはいい条件だと思った。特に前払いの金額がでかい。さらに彼は、バンドの契約が決まった際に所属する出版社も知っており、その上2万ドルを事前に支払うとまで言っていて、バンドはその分の収入も得ることになる。マネージャーは、出版業界はとても怪しくその金がどこからくるのか誰も知らないというが、その契約書も弁護士が目を通してくれる。おいおい、勝手に金が入ってくるんだぜ。

彼らのブッキング・エージェントは、バンドがメジャーレーベルと契約することを心待ちにしている。今後バンドは一晩で1000か2000ドルくらいは稼げるようになるだろうと、彼は言う。サポート付きで5週間のツアーをやるにはそれだけあれば十分で、ちゃんとしたスタッフも雇えて、いい機材も揃えて、ツアーバスだって買える!バスはとても高価だが、バンドメンバーとスタッフ全員分のホテル代を計算してみれば実際はほとんど同じ額だ。(セラピー?やスローン、ステレオラブといった)いくつかのバンドは、一晩たった数百ドル、ツアー全体で最低1000か2000ドルしか稼げなくてもバスを使っている。それだけの価値があるのだ。バンドはよりいい環境でいい演奏ができる。

このエージェントが言うには、メジャーレーベルに所属するバンドには物販会社が付き、Tシャツ用の前金まで払ってくれるらしい!なんてこった!ここは金鉱か!弁護士は念のため物販の契約書も目を通してくれるはずだ。

契約会では大いに飲むだろう。写真撮影が行われ、誰もが興奮の面持ちだ。レーベルはリムジンで彼らを迎えに来る。

彼らは、元レターマン・バンドのプロデューサーを選ぶことにした。彼はテクニシャンを呼んでドラムをチューニングし、アンプやギターを調整させた。さらに別の人物を呼んですごい数の高価な「ビンテージ」マイクを持ってこさせた。おぉ、これが「暖かい」音か。 その上さらに別の人物を呼んで、コントロール・ルームにあるすべての機材の位相の確認までさせた!わぁ、これがプロか。彼は多くの機材をバンドに使い、最終的にとても「パンチ」があって「暖かい」音になったと、全員が同意した。

今までの苦労が報われた。PVが功を奏し、アルバムは飛ぶように売れた!なんと25万枚も売れたのだ!

これがどれだけ狂った数字であるのか数学で説明しよう。

これらの数字は、一般的なレコード契約書にある金額を表したものだ。実例は多くあるため、シナリオを悪く見せようと、これらの数字を歪曲する必要はない。収入には下線が付いるが、支出には何もついていない。

前金:250,000ドルマネージャーの取り分:37,500ドル
弁護士費用:10,000ドルレコーディング予算:150,000ドル
プロデューサーへの前金:50,000ドル
スタジオ費:52,500ドル
ドラム、アンプ、マイク、位相「専門家」:3,000ドル
レコーディングテープ:8,000ドル
機材レンタル:5,000ドル
機材運搬:5,000ドル
スタジオに籠る際の宿泊費:10,000ドル
ケータリング:3,000ドル
マスタリング:10,000ドル
テープのコピー、リファレンスCD、テープの配送、雑費:2,000ドルPV予算:30,000ドル
カメラ:8,000ドル
スタッフ:5,000ドル
処理、配送:3,000ドル
オフライン:2,000ドル
オンライン編集:3,000ドル
ケータリング:1,000ドル
ステージ、組み立て:3,000ドル
コピー、宅配、輸送:2,000ドル
監督手当:3,000ドルアルバムアートワーク:5,000ドル
宣材写真撮影、複製:2,000ドルバンド資金:15,000ドル
新しいプロ仕様の小洒落たドラムキット:5,000ドル
新しいプロ仕様の小洒落たギター(2本):3,000
新しいプロ仕様の小洒落たギターアンプ一式(2セット):4,000
新しい小洒落たイモ形のベース:1,000ドル
新しい小洒落た照明付きベースアンプ:1,000ドル
リハーサルスペースのレンタル:500ドル
友人のためのド派手なパーティ:500ドルツアー支出(5週間):50,875ドル
バス:25,000ドル
スタッフ(3人):7,500ドル
食費と日当:7,875ドル
ガソリン:3,000ドル
消耗品:3,500ドル
衣装ダンス:1,000ドル
プロモーション:3,000ドルツアーの総収入:50,000ドル
エージェントの取り分:7,500ドル
マネージャーの取り分:7,500ドル物販前金:20,000ドル
マネージャーの取り分:3,000ドル
弁護士相談料:1,000ドル出版前金:20,000ドル
マネージャーの取り分:3,000ドル
弁護士相談料:1,000ドルレコードの売り上げ:250,000枚×12ドル = 総小売売上3,000,000ドル印税 (小売り90%中の13%):351,000ドル
後金:250,000ドル
プロデューサーの取り分:(3%から50,000ドルの前金を引いた額) 40,000ドル
プロモーション予算:25,000ドル
前レーベルの補償:50,000ドル手取り印税:(-14,000ドル)レコード会社収入:
レコード卸売価格 6,50 × 250,000 = 1,625,000 総収入アーティストの印税:351,000ドル
印税からの不足:14,000ドル
製造、梱包、流通→一枚につき2.20ドル:550,000ドル
売上総利益:710,000ドルバランスシート以下は、それぞれが最終的に得られる額である。レコード会社:710,000ドル
プロデューサー:90,000ドル
マネージャー:51,000ドル
スタジオ:52,500ドル
以前のレーベル:50,000ドル
エージェント:7,500ドル
弁護士:12,000ドルバンドメンバーそれぞれの手取り:4,031.25ドル

これでバンドは契約の四分の一を終了したことになり、音楽会社を300万ドル以上もリッチにさせたが、印税で14,000ドルのマイナスだ。バンドメンバーはそれぞれ、セブンイレブンで稼げる額の約三分の一を稼いだが、一ヶ月もバスに乗せられる。

次のアルバムも大体同じだが、レコード会社は時間と金がもっと掛かったと主張するだろう。前作でかかった費用の「埋め合わせ」がされることはないため、バンドに選択の余地はなく従うほかない。

次のツアーも大体同じだが、物販の前金は既に支払わており、どういうわけか、バンドはTシャツの印税をもらえていないだろう。恐らくTシャツ会社の奴らはレコード会社の奴らのように、金の数え方を覚えたんだろう。

恐らく、君の友人も、これくらいやられている。


脚注

  1. Touch and Go:シカゴのインディ・レコード・レーベル。ニルヴァーナ、バットホール・サーファーズ、ジーザス・リザードなどリリース。アルビニのバンド(ビッグ・ブラック、シェラック)もリリースしており付き合いは長い。
  2. 音楽プロデューサー。手がけたバンドは、ソニック・ユース、ダイナソーJr.、ティーンエイジ・ファンクラブ、ホールなど。
  3. ミニストリーのフロントマン。自分のバンドのプロデュース以外には、レブレンド・ホートン・ハート、スキニー・パピー、デッサウ、スクリューなども手掛ける。
  4. ソニック・ユースのギタリスト。2004年Rolling Stone誌が行った「最も偉大なギタリスト」企画で33位。
  5. トーキング・ヘッズのキーボーディスト/ギタリスト。それ以前はジョナサン・リッチマンとモダン・ラヴァーズでプレイ。
  6. 元ニューヨーク・ヤンキースの選手。
  7. Smashchords: シアトルのツーピース(ギター&ベース)ガレージ・インストバンド。81年に6曲入りEPを発表。
  8. Metal Urbain: 76年にパリで結成された初のフレンチ・パンクバンド。
  9. Third World War: 70~72年に活動したイギリスのスリーピース・ロックバンド。
  10. ガービッジのドラマー/音楽プロデューサー。ニルヴァーナの『Never Mind』をプロデュースした人。
  11. アメリカの大人気コメディアン。自身の冠番組のホストを1982年~2015まで務めた(日本でいうとタモリの笑っていいとも的な)。海外のレイト・ショー番組にはたいてい腕利きミュージシャンを従えたお抱えバンドがいる。
  12. オーディオ・エンジニア/音楽プロデューサー。手がけたバンドは、ソニック・ユース、ヘルメット、ダイナソーJr.など。
  13. 音楽プロデューサー。リック・ルービンと共にRun-DMC&エアロスミスの「Walk This Way」手がけた大物。関わった作品は世界で8千万枚以上売られている。
  14. Sub Pop:シアトルのインディ・レコード・レーベル。90年代のグランジ系バンドを多く輩出。
  15. Twin/Tone Records:ミネアポリスのインディ・レコード・レーベル。リプレイスメンツやソウル・アサイラムをリリース。
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